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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)6415号 判決

原告 西片和夫

右訴訟代理人弁護士 上杉柳蔵

被告 昭和第一商事株式会社

右代表者代表取締役 野川巳恵

右訴訟代理人弁護士 岡田久恵

同 村上寿夫

同 棚村重信

主文

一  被告は原告に対し、金七、二二九、五一二円と、これに対する昭和四六年八月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、原告において金二、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文第一、二項と同旨並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  本案前の答弁

本件訴を却下する。

(二)  本案の答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  原告は、被告の注文により、昭和四五年七月二日、別紙物件目録記載(一)ないし(三)(ただし、(三)のうち倉庫部分を除く。)の建物(以下「本件建物」という。)の新築工事(以下「本工事」という。)を次の約定で請負った。

1 代金   金一三、〇〇〇、〇〇〇円

2 工期   同年一〇月五日

3 引渡時期 完工日から二日以内

(二)  原告はその後、被告の注文により、本件建物についての増工事として、倉庫及び冷却棟新築工事、水槽設置工事、工場内外の土間コンクリート工事、その他の工事(以下「増工事」という。)を、代金三、〇七三、三三四円で請負った。

(以下、右(一)、(二)の請負契約を「本件請負契約」という。)

(三)  原告は、昭和四五年七月二日、本工事に着工し、同年一〇月五日、これを完成して、同月一五日、被告に引渡した。また、増工事も同年一二月までにいずれも完成して、そのつど被告に引渡した。

(四)  よって、原告は被告に対し、本件請負契約の代金債権合計金一六、〇七三、三三四円を有するところ、原告は、被告から昭和四五年一二月二五日までに抗弁(五)記載の金員中合計金八、八四三、八二二円の支払を受けたので、原告は被告に対し、右請負残代金七、二二九、五一二円と、これに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四六年八月一九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の本案前の主張

本件請負契約は、建設省の定めた工事請負契約約款(いわゆる標準約款)に依拠するものであるところ、右約款は、二七条一項において、請負に関し紛争の生じたときは、第三者もしくは建設工事紛争審査会のあっ旋又は調停に付することを、同条二項において、同条一項の手続で解決しないときは、右審査会の仲裁に付することができることを定めている。すなわち、本件請負契約に関しては原告・被告間に仲裁契約が存するから、本件訴は訴訟要件を欠缺する。

三  被告の本案前の主張に対する原告の答弁

本件紛争は、請負工事が完成し、引渡も完了した後の代金支払関係のみについての紛争であり、被告主張の約款に規定された請負に関する紛争には該当しない。

四  請求原因に対する認否

(一)は認め、(二)は否認。(三)のうち、主張の日に本工事に着工したこと及びこれを完成し引渡があったことは認めるが、引渡の日時を含めて、その余の事実は否認。(四)のうち、主張の代金支払の事実は認めるが、その余の点は争う。

五  抗弁

(一)  強行法規違反、公序良俗違反

原告は、建設業法所定の登録を昭和四六年七月四日になって初めてしたもので、同四五年当時は、未登録の建設業者であった。同法は未登録の者が建設業を営むことを禁止しており、右はいわゆる強行法規であるから、これに違反してなされた本件請負契約は、民法九一条により、また、同様の理由で公の秩序に反するから、同法九〇条により、無効である。

(二)  錯誤

被告は、原告が法定の登録をした建設業者であると信じて、原告と本件請負契約をなしたものであるが、真実は未登録であった。被告は、原告が未登録であることを知っていたなら、右契約をなさなかったもので、被告の右契約における意思表示は、その要素に錯誤があり無効である。

(三)  詐欺

原告は、真実は未登録の建設業者であるのに、被告が原告は登録しているものと誤信しているのに乗じて、右事実をあえて秘匿し、登録しているかのように装って、被告に本件請負契約をなさしめた。よって、被告は原告に対し、昭和四七年一〇月一六日の本件口頭弁論期日において、本件請負契約を締結した被告の意思表示を取消す旨の意思表示をした。

(四)  弁済期未到来

本工事の代金支払時期については、契約締結時に金三、〇〇〇、〇〇〇円を、引渡時に金三、五〇〇、〇〇〇円を各支払い、残金六、五〇〇、〇〇〇円については、本工事によってできた被告の工場操業開始後の営業状況と見合わせて、その利潤によって支払う旨の特約があったので、現在のところ、右残金の弁済期は到来していない。

(五)  弁済

被告は原告に対し、本件請負契約の代金として、昭和四五年七月二日金三、〇〇〇、〇〇〇円、同年一〇月一五日金三、五〇〇、〇〇〇円、その後同年一二月二五日までに金二、三五三、八二二円、合計金八、八五三、八二二円を支払った。

(六)  相殺

原告は、昭和四五年一〇月五日に本件建物を完成し、同月七日までに引渡す約であったところ、同年一一月七日になり、やっと本件建物を完成し、被告に引渡した。

被告は、本件建物が約定の期日に完成の上引渡されることを前提に、本件建物に付帯する電気工事、機械据付工事、築炉工事等工場設備一切の工事を、各施工業者に注文して、本件建物引渡後一〇日以内、即ち同月一七日までに各完成引渡を受ける約定で、各工事請負契約を締結し、同日までには工場操業開始ができるように準備した。他方、右操業開始を前提として、有力商社顧客から仕事の注文を受け、特殊技術者及び工員の募集確保に努めていた。しかるに、前記原告の不履行により、右付帯工事の請負契約を解約せざるをえなくなり、本件建物引渡後改めて右工事を注文したが、即時着工しえず、同年一二月二〇日ごろになり付帯工事が完成引渡された。そのため工場の操業開始も遅延を余儀なくされ、同月下旬操業を開始したが、右遅延により、前記受注した契約も解消のやむなきに至った。

右のとおり、被告は、原告の前記債務不履行により、操業開始予定日同年一〇月一七日から同年一一月末までのうち休日を除く六一日間の操業ができなくなり、別紙損害計算表記載のとおり、金七、一七〇、〇〇〇円の得べかりし利益を喪失し、同額の損害を受けたから、原告に対しその賠償債権を有する。

被告は原告に対し、同四六年一二月一四日の本件口頭弁論期日において、右損害賠償債権をもって、原告の本訴請求債権と、その対等額において相殺する旨の意思表示をした。

六  抗弁に対する認否

(一)ないし(三)のうち、原告が昭和四五年当時主張の登録をしていなかったこと、同四六年七月四日右登録をしたことは認めるが、その余の事実は否認。法律上の主張は争う。

なお、原告から下請して、現実に本件工事を行なった株式会社越路鉄工所、株式会社欅建設、合資会社永井材木店等は、いずれも法定の登録をしていた者であるから、原告は建設業法に違反するものではないと信じて本件請負契約を締結したものである。

(四)のうち、代金支払時期につき、契約締結時金三、〇〇〇、〇〇〇円を、引渡時金三、五〇〇、〇〇〇円を各支払う旨の約定があったことは認めるが、その余の事実は否認。残代金については、昭和四六年一月末及び同年二月末限り各金二、〇〇〇、〇〇〇円を、同年三月末限り金二、五〇〇、〇〇〇円を各支払う約定であった。

(五)のうち、昭和四五年七月二日及び同年一〇月一五日の主張の金員並びにその後の金二、三四三、八二二円、合計金八、八四三、八二二円の支払の事実は認めるが、その余の事実は否認。

(六)のうち、原告の被告に対する本件建物引渡が遅れたとの事実は否認。被告が本件請負契約以外に機械据付工事を発注したこと(受注者は原告である。)は認める。その余の点は争う。

第三証拠≪省略≫

理由

一  被告は、本件訴は訴訟要件を欠く旨主張し、却下を申立てているので、まずこの点につき判断する。

≪証拠省略≫によれば、本件請負契約が被告主張の標準約款に依拠して締結されたこと、右標準約款の二七条には、

(1)  この契約について紛争が生じたときは、当事者双方又は一方から相手方の承認する第三者を選んで、これに紛争の解決を依頼するか、又は建設業法による建設工事紛争審査会のあっ旋又は調停に付する。

(2)  前項によって紛争が解決しないときは、建設業法による建設工事紛争審査会の仲裁に付することができる。

との規定が存することが認められる。しかし、右規定は、訴訟手続を排し、専らあっ旋、調停ないしは仲裁によってのみ紛争を解決する旨のいわゆる不起訴の合意ないし仲裁契約と解すべきではなく、訴訟手続とは別個に、独自の解決方法によりうることを合意したものに過ぎないと解するのが相当である。のみならず、本件において被告が右約款の存在を本案前の抗弁として主張したのは第九回口頭弁論期日に至ってからであり、被告はそれに先立つ各口頭弁論期日において本案に関する弁論を重ね、証人尋問の申請までしているのであるから、被告は右合意の存在を知りつつ、その定める紛争解決の途をとることは放棄したものと解するのを相当とする。してみれば、右約款を被告主張の趣旨に解すべきものとの前提をとっても、被告はもはやこれを妨訴抗弁の根拠として主張しうる権利は有しないものというべきであるから、被告の右本案前の主張は、いずれにしても採用しうる限りでないことが明らかである。

二(一)  請求原因事実のうち、原告が、被告の注文により、昭和四五年七月二日、本工事を代金一三、〇〇〇、〇〇〇円、工期同年一〇月五日、引渡時期完工日から二日以内の約定で請負ったこと、本工事に着手したこと、右工事を完成し被告に引渡したことは、当事者間に争いがない。

(二)  ≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四五年七月ごろから同年一〇月ごろまでの間、被告を代理する専務取締役千葉清からの注文により原告主張の増工事を代金合計三、〇七三、三三四円で請負ったことが認められ≪証拠省略≫は右認定を履すに足りず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  ≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四五年一〇月五日ごろ本工事を完成し、同月一五日ごろ本件建物を被告に引渡したことが認められる。証人千葉及び同野川の各証言中には、右認定に反する部分があるが、後記のとおり、本建物の引渡と同時に支払われるべき代金の内金三、五〇〇、〇〇〇円が同年一〇月一五日に支払われた事実については当事者間に争いがないこと及び前記各証拠に照らすと、右証言部分は措信しえず、また≪証拠省略≫によれば、被告の工場操業開始が、同年一二月末ごろになったことが認められるが、≪証拠省略≫によれば、右操業開始が遅れたのは、大万一成の請負った電気工事が送電施設の用地買収の遅延等の理由で遅れたことに起因すると認められるから、被告の工場操業開始が遅れたことは、前記認定の妨げとならず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

また、≪証拠省略≫によれば、増工事は、変電室の工事が昭和四五年一二月中旬ごろ完成したのを最後として、すべて完成し、その頃までに被告に引渡されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四)  以上の事実によれば、原告は被告に対し、本工事代金一三、〇〇〇、〇〇〇円及び増工事代金三、〇七三、三三四円の合計金一六、〇七三、三三四円の債権を取得したものというべきである。

三  抗弁(一)について。

建設業法(昭和四六年法律三一号による改正前のもの)は、建設業を営む者(ただし、政令で定める軽微な工事のみを請負うことを営業とする者は除外されている。)の登録の実施、建設工事の請負契約の規正、技術者の設置等により建設工事の適正な施工を確保するとともに、建設業の健全な発達に資することを目的とし(同法一条参照)、四条以下一七条において建設業者の登録に関する規定をもうけ、そのうち、四条では建設業を営もうとする者は登録を受けなければならないこと、一〇条では登録を受けない者は建設業を営むことはできないことを定め、さらに四五条には無登録営業者に対する罰則の定めがあるが、右建設業法の目的および各規定の趣旨、内容に鑑みると、建設業者の登録を義務づけている同法の主たる法意は、登録の実施によって監督官庁による監督を容易ならしめること等により、不良建設業者を排除して建設業の健全な発達を促進しようとするにあり、その意味で公益的性格を有するものというべきであるが、無登録の建設業者が行なう建設工事に関する個別的な請負契約の私法上の効力を直接的に規制することまでを意図するものではないと解するのが相当である。したがって、無登録の建設業者が注文者との間で締結した請負契約であっても、契約締結当時において、当該業者が建設業法五条所定の資格を有せず、そのため建設工事の適正な施工を期待し難く、工事の施工によって公衆に危害を及ぼすおそれが強い等の特段の事情がある場合は別として、建設業者が無登録であることのみを理由に、右業者の締結した請負契約をもって、直ちに無効の契約と断ずるわけにはいかないものといわなければならない。そこで本件について案ずるに、原告は、本件請負契約締結当時は右登録をしていなかったとはいえ、右契約締結から約一年後、完工から約九か月後の昭和四六年七月四日に右登録をしたことは、当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、原告は本件契約締結当時においても登録を受けるのに必要な要件は具備していたものと認められるうえに、≪証拠省略≫によれば、本工事、増工事とも、実際に鉄骨工事その他の主要工事を施工したのは、原告から下請した株式会社越路鉄工所、株式会社欅建設及び合資会社永田材木店等であり、これらの者はいずれも、登録をした建設業者であったことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。そうすると、少くとも右のような事実関係のもとで原告がなした本件請負契約については、これを公序良俗に反する行為とまでは断じえず、また、建設業法も、少くとも本件のような事情のもとで無登録業者がなした請負契約をも無効にするまでの効力は有しないものというべきである。

よって、抗弁(一)は失当である。

四  抗弁(二)について。

原告と被告との間の本件請負契約は、原告が被告の注文に応じて本件建物およびこれに付属する建物等の建築を行ない、被告がこれに対し報酬を支払うことを内容とするものであることは既述のとおりであり、原告が建設業法所定の登録を受けているか否かは右契約の要素であるとは認められないから、その点につき被告に錯誤があったとしても、右はいわゆる動機の錯誤たるにとどまるところ、右動機を表示したことについて主張、立証がないので、右契約が錯誤により無効であるということはできない。

五  抗弁(三)について。

原告が本件請負契約当時建設業者としての登録を受けていなかったことは、既に認定したとおりである。しかし、本件請負契約が原告の詐欺によって締結されたと認めるに足りる証拠はない。すなわち、≪証拠省略≫によれば、被告が原告との間で本件請負契約を締結するに至ったのは、被告の専務取締役千葉清が被告に勤務する以前に工事を依頼したことがあって原告を知っていたため、被告から注文を出したからであり、右千葉は原告の工事能力の大要を知り、鉄骨工事等は当然他の業者に下請させるものと予想していたこと、これに対し原告は、建設業者としての登録を受けていなかったため被告の注文に応じることは禁止されていることを認識していたが、建築士と相談した結果、工事の主要部分を登録を受けた建設業者に下請させれば差支えあるまいと判断して、被告の注文に応じ本件請負契約の締結をしたこと、右契約にあたり自己が登録を受けていないことを被告に告げなかったことが認められるが、それ以上に、原告が被告に対し、原告を登録を受けた建設業者であると誤信させるため、もしくは被告においてそのように誤信しているとの認識を抱きながら、真実の発覚を防ぐため、自己が登録を受けていないことをことさら秘匿し、被告の錯誤に乗じて契約を締結させようとする意図を持っていたことを推認させるに足りる証拠はなく、むしろ、前記認定事実に≪証拠省略≫を総合すれば、原告において前叙のとおり自己が登録を受けていないことに懸念を持ったのは、取締当局に対する関係においてであって、被告に対する関係においてではなく、原告は、自己の登録の有無によって被告の契約締結に関する去就が左右されるとは予想もしていなかったものと推認される。以上の認定を覆すに足りる証拠はない。

したがって、被告に対する欺罔の意思、まして自己の欺罔行為に起因する錯誤によって契約締結の意思表示をさせようとする意思が原告にあったものとはいえないので、詐欺の成立は認められず、抗弁(三)も失当たるを免れない。

六  抗弁(四)について。

本件請負契約において、原告と被告との間で本工事の請負代金支払時期について、契約締結時金三、〇〇〇、〇〇〇円、本件建物の引渡時金三、五〇〇、〇〇〇円との約定があったことについては、当事者間に争いがない。残代金六、五〇〇、〇〇〇円について、被告は、被告の工事操業開始後の利潤により支払う旨の特約があったと主張し、証人千葉及び同野川の各証言中には、右に符合する部分があり、乙第二号証にはその旨の記載がある。しかし、右乙第二号証は、原告作成名義になっているが、右証人千葉の証言によれば、右文書の文章、原告名義ともに、被告の常務取締役である畑中正雄が書いたものであることが認められ、原告名下に押印がないものであって、原告が作成したと認めるに足りる証拠はない。また、右各証言は、≪証拠省略≫に徴して措信しがたく、他に右特約を認めるに足りる証拠はない。

以上によれば、抗弁(四)も失当である。

七  抗弁(五)について。

右抗弁のうち、被告が原告に対し、本件請負契約の代金として、昭和四五年七月二日、金三、〇〇〇、〇〇〇円、同年一〇月一五日、金三、五〇〇、〇〇〇円、その後同年一二月二五日までに、金二、三四三、八二二円、合計金八、八四三、八二二円を支払ったことは、当事者間に争いがない。被告がさらに金一〇、〇〇〇円を支払ったことについては、これを認めるに足りる証拠はない。よって、本件請負契約に基づく原告の被告に対する請負代金債権は、金八、八四三、八二二円の限度で、弁済により消滅したというべきであり、原告が受領を認めて本訴請求額から差引いている右金額を越える部分については、抗弁(五)も理由がない。

八  抗弁(六)について。

原告は、昭和四五年一〇月五日ごろ本件建物を完成し、同月一五日ごろこれを被告に引渡したことは、前記認定のとおりであるので、前記本件請負契約の内容に照らすと、右引渡は約定の期日より約八日遅れたことになる。そして、被告は、原告の引渡が遅れたことにより、工場操業開始が遅れて、損害を受けたと主張する。しかし、工場操業開始が遅れたのは、前記電気工事が遅れたためであって、原告の本件建物引渡の遅滞によるものではないことも、前記認定のとおりである。すると、被告主張の損害発生と右遅滞との間の因果関係を認めることはできず、他に右遅滞から損害が生じたことを認めさせるべき証拠はない。

よって、抗弁(六)もまた失当である。

九  以上によれば、本件請負契約の代金債権中、前記弁済によって消滅した部分を除いた金七、二二九、五一二円と、これに対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかである昭和四六年八月一九日から支払ずみまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は、理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大橋寛明 裁判長裁判官横山長、裁判官大出晃之は、いずれも転補のため署名捺印することができない。裁判官 大橋寛明)

〈以下省略〉

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